B! ゴロビシャ

ブロッキングはありなの?出版業かプロバイダーか

 

■異例の反対意見書

 

「中間まとめ(案)はブロッキングの法制化を強行しようとする内容であり、私たちは反対します」。政府の知的財産戦略本部が19日開いた「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」。今回は中間とりまとめの予定だったが、20人いる構成員のうち、9人の委員から連名による反対意見書が提出された。この手の役所の会議では、とりまとめにあたった事務局の労をねぎらう発言こそあれ、異論を唱える声はまずない。それが賛成派と反対派の真っ二つに割れたこと自体、今回の議論の難しさを物語る。

海賊版サイトは「漫画村」や「アニチューブ」「ミオミオ」といった漫画やアニメの違法ダウンロードサイトだ。2016年ごろから利用者が増え、漫画本や出版社の電子出版サイトに深刻な影響を与えている。発売前の出版物を入手し、そのコピーを一般読者に閲覧させるサイトで、それによる出版業界の被害総額は4000億円にも上るといわれる。各出版社は違法コピーの削除を個別にサイト側に求めてきたが、相手のほとんどがサーバーを日本の法律が及ばない海外に置いており、実効性がなかった。業を煮やした出版業界は政府に駆け込み、緊急避難措置として接続遮断を認める方針が今年4月、政府から示された。

今回のタスクフォースはそうしたブロッキングを法制化するための場ともいえ、出版社だけでなく、通信事業者や法律家、専門家などを交え、幅広く意見を収集する予定だった。ところがブロッキング法案の提出を急ぐ事務局が初めからブロッキングありきで報告書をまとめたことから、憲法上の問題などを指摘する通信事業者や法律家などから反論が噴出し、会議は暗礁に乗り上げてしまった。

著作権表現の自由

 

その際の最大の論点は「著作権」という出版社の財産権と「通信の秘密」や「表現の自由」といった国民の権利のどちらを優先すべきかという問題だ。いずれも日本国憲法で保障された権利だけに、どちらに重きを置くかで意見が割れた。つまり海賊版で収入が減少した出版業界にしてみれば、アクセスを遮断し海賊版サイトを見られないようにするのはもっともな主張だ。一方、ブロッキングを認めれば、通信事業者は利用者全員のアクセス先をいちいち監視することになり、そのためのコストがかさみ、訴えられる可能性もある。さらにプライバシー侵害など他の目的でもブロッキングを要請されるリスクまでつきまとう。

通常なら、賛成、反対の両意見を取りまとめ、中間案を提示することで「落としどころ」を探るのが事務局の仕事だが、4月にブロッキングの方向性をすでに示してしまった知財本部としては、後戻りできなかったといえるかもしれない。日本のコンテンツ産業の振興を担う文化庁としても「ブロッキングはやむなし」という立場をとらざるを得ない。一方、インターネットプロバイダー(接続業者)や通信事業者を抱える総務省としては、業界の不利になることは簡単には受け入れられない。結局、民間の事業者はおろか、政府内でもそれぞれの利害が対立し、議論が紛糾する結果となってしまった。

■一部で歩み寄りも

もちろん歩み寄りもあった。例えば、海賊版サイトの資金源となっている広告出稿や違法サイトへ誘導する「リーチサイト」への規制、海賊版を見えないようにするフィルタリング技術や違法サイトにアクセスしようとした際に警告を発する技術の導入などだ。「ネット上のコンテンツは無料」と思いがちな若者に対する著作権教育も重要だ。

19日の中間とりまとめ会合では、ブロッキングの法制化議論は先送りにし、「合意できるところから話を進めてみたらどうか」という意見もあったが、「先に協力して、後からブロッキングを法制化されてはかなわない」という反対意見が出て、結局、歩み寄ることはなかった。

 

では、このままでいいかといえば、そういうわけにはいかない。まず必要なことは、海賊版サイトから画像をダウンロードすることを違法と定める法的な措置だろう。動画や音楽の違法ダウンロードはすでに違法となっているが、ネット配信がこれまで大きな市場になっていなかった漫画やアニメの世界では法制化が遅れていたからだ。通信事業者が利用者に警告を発する場合にも、そうした法律があれば、利用者の同意を得やすくなる。まずはそうした法制化を行い、それでも実効性が上がらない場合に初めてブロッキングの議論をするといった考え方もある。

もう一つ重要なのは、出版業界として正規の電子出版サイトを早く充実させることだろう。仮にブロッキングを認めても、サイトの運営側がアドレスを他に移してしまえば意味がない。ブロッキングに従った国内プロバイダーが日本の利用者の接続を遮断したとしても、海外のプロバイダーを利用する海外の読者はそのまま閲覧できる状態が続く。だとすれば海賊版サイトにアクセスするよりもっと便利なサイトを安価に提供する方が、将来的には成果が上がるのではないだろうか。

■音楽の世界の先例

実は同じことは今から20年近く前、音楽の世界でもあった。CDの楽曲を「MP3」と呼ばれる圧縮ファイルに置き換え、ネット上で互いに利用できるようにした「ナップスター」と呼ばれるファイル交換サービスだ。1998年に生まれたこのベンチャー企業により米国のシングルCDの売上高は2000年に前年比46%減り、今の出版業界と同じような状況に陥った。

ナップスターの場合は相手を特定できたことから、レコード会社が著作権侵害で訴え、結局、同社は廃業に追い込まれた。しかし、そうした若者たちによる新しい音楽の聴取方法に目を付け、楽曲をMP3のファイルで安価にネット配信するベンチャー企業が登場した。もともと大手のレコード会社の顧問弁護士をしていたロバート・コーン氏が始めた「eミュージック」だ。アルバム形式でまとめ売りをしようする音楽会社に対し、1曲ごとのバラ売りを採用、1曲の値段を99セントにした。楽曲リストも整理され検索もできるなど、違法にダウンロードした楽曲を自分で整理するより、有料でも利便性は非常に高いと思った消費者はナップスターから移っていった。

eミュージックは最初、マイナーなインディーズ系の楽曲から始めたが、やがて大手のレーベルも扱うようになり、大きな成功を収めた。それに商売のヒントを得て、メジャーレーベルの楽曲を1曲99セントで一手に売りだそうと考えたのが米アップルのスティーブ・ジョブズ氏だ。その意味では後発だが、当時、ネット配信に二の足を踏んでいた米音楽大手の経営者に楽曲の提供を認めさせたのはジョブズ氏の功績である。

そう考えると、日本の電子出版サイトは各社バラバラで、どこに何の本があるのかよくわからない。しかも出版社側の意向でサイトを運営する場合が多く、出版物の販売に影響が出ないようにするため、値段も高い。実はナップスターの利用者がそうだったように、著作権違反と知りながら利用を続けるのは誰もが望んでいることではない。だとすれば、便利に安価で堂々と使える漫画やアニメのサイトがあれば、読者もそちらに目を向けるに違いない。ブロッキング憲法上の問題さえクリアされれば緊急避難的な措置として成果は期待できるが、デジタル時代の消費者の理解を得られなければ、真の救世主とはなりえないだろう。

 

関口和一(せきぐち・わいち)
 82年日本経済新聞社入社。ハーバード大学フルブライト客員研究員、ワシントン支局特派員、論説委員などを経て現在、編集局編集委員。主に情報通信分野を担当。東京大学大学院、法政大学大学院、国際大学グローコムの客員教授を兼務。NHK国際放送の解説者も務めた。著書に「パソコン革命の旗手たち」「情報探索術」など。

 

ブロッキングは出版業の救世主か 編集委員 関口和一 :日本経済新聞

ようこそ!名無し文学部へ
楽しんでいってください。